キングオブコント2009

今回の大会、一言で言えば、非常に充実した、見る側からしても大きな納得感とともに終えた大会となった。

1.結果:

            一回戦 二回戦 総合得点
1)サンドウィッチマン 878 865 1743
2)東京03      835 953 1788 →優勝
3)しずる       820 831 1651
4)ロッチ       807 804 1611
5)モンスターエンジン 771 855 1626
6)インパルス     767 868 1635
7)ジャルジャル    734 805 1539
8)天竺鼠       723 829 1552

  *第二回戦の出演順(昇順)=第一回戦の点数順

2.所感:

以前、このブログで、昨年のコングオブコントの審査方法への違和感について書いたことがある。決勝戦2回戦目で、1回戦で敗れた芸人たちが、記名性(というかその場で)どっちが良かったかを宣言しなければいけないという状況は、さすがに公平性を欠くだろう、その結果が、吉本のベテラン芸人であるバッファロー吾郎に有利に働いたことは否定できないだろう、という点についてである。
今回、その審査方法は改められていた。準決勝敗退者100組が、無記名で第一回戦、第二回戦に投票、総合得点の高い組が優勝、というルールとなっていた。これは大きな改善点だと言える。

その上で、個人的に、大会前に考えていた、というか思っていたことは、

1.今の実力派がきちんと駒を進めたことに対する、大会のレベルそのものへの大きな期待(個人的には、このメンバーに”ロバート”が入ればかなり完璧)
2.”爆笑レッドシアター”レギュラーが8組中3組入っている(しずる、ロッチ、ジャルジャル)。ファンとしてうれしいばかり。かつ、メンバーにも納得(はんにゃでも、フルポンでもなくこの3組が勝ち上がったというところに、この8組が決まるまでのある正常な審査制が機能していたことを感じさせる)。特に贔屓にしているジャルジャルには、この舞台で大きくなってほしい。しかし、若くしてレギュラー番組を持ち、局からも次代を担う若手として大切に育てられている彼らのことを、準決勝敗退組、つまり審査をする側の芸人たちが、果たして、冷静に公平にジャッジ出来るのだろうか、という不安もあり。生意気なジャルジャルなどは、必要以上に辛い点数を付けられてしまうのではないか?
3.モンエンは、神々、ピン芸もある程度一巡した中で、どういう新しいコントを見せてくれるのか。不安とともに期待。
4.インパルス、特に板倉は本領を発揮してもらいたい。はねトビメンバーは、ロバートもそうだし、インパルスもそうだけど、実力は間違いなく超一流なのに、人気先行になってしまったために、賞レースではあまり評価されてこなかった感がある。去年のロバートも惜しかったが、インパルスには頑張ってもらいたい。
5.天竺鼠: 川原は才能ある。どこでブレイクしてくれるのか?
6.サンドウィッチマン、東京03: 特に期待感なし。両者とも、安定感あることは知っていたが、なにかお笑いに新しい何かを付け加えるようなコンビなりトリオではないだろう、という印象。つまり、好みではなかった。一方、上記2、の裏腹で、投票する側の芸人達、特に吉本の中でしのぎを削っているメンバーにとってみれば、他の組に比べ、”脅威””ライバル”と映りにくいのではないか?そういう意味で、相対的に点数が甘くなる可能性があるのではないか?

なんてことを考えていて、まあ、点数だけ見れば、”やっぱり、サンドウィッチマン、東京03は高かった。ジャルジャルは低かった。審査方法に問題ないか?”ということも言えなくはないが、実感としてはそうではなかった。

個別のコンビ、トリオについての感想。

1)天竺鼠: 
第一回戦は、瀬下がはずれたマイク(?)をやたらと気にしていて集中力をなくしていた。その結果、どうもテンポの悪いかみ合わない出来になってしまった。ネタ自体も勢い重視のものであっただけに痛かった。第二回戦は、彼らの異端的なニュアンス、川原の異能を、きっちり見せつけることが出来たネタだったのではないかと思う。全国で売れる売れないは別として、彼らにしか出来ないものを感じさせたという意味で、よかった。バッファロー木村ではないが、”ナイス・ユーモア!”と言っておきたい。

2)ジャルジャル
正直言って、物足りなかった。これは、総論として言うべきかもしれないが、まわりのレベルの高い演者の中で、言ってみれば、何を持ってきても笑わせれば勝ち、というような猛者たちの中で、コンセプチュアルで且つ1ネタ1アイデアで突っ走る彼らのコントは、とても線の細いものに映った。かつて、若いころのダウンタウンも相当コンセプチュアルであったが、一方で、ごり押しででも笑わせるという野太さも同時に持っていた。ジャルジャルにはその野太さが足りないのだ。このレベルの高い大会で、その欠点が浮き彫りになったと言える。

3)インパルス:
第二回戦の警官ネタは、素晴らしかった。板倉もまた、”線の細いコンセプチュアルな天才”の系譜に入ると思うが(そういう意味で、個人的には一番好きな系譜なのだけど)、”警官が被害者の家に呼ばれる”=”女の子が男の家に呼ばれる”という(それ自体はさほど大した発想ではない)1アイデアを展開させていく力技に、彼らの”芸人”としての実力の深さを感じた。1アイデアのネタが大きく展開するときの、うねるようなグルーヴ。その瞬間を感じさせてくれたという意味で、見事だった。ジャルジャルが最も参考にすべき舞台だったのではないか?

4)モンスターエンジン
”競馬中継を長年やってたじいさん””戦で死んで槍が体に刺さったヘタレ守護霊”という、かなり斬新な設定を取りつつ、ベタでも何でも笑わしたる、という気概を感じさせた。才能もさることながら、その野太さにおいて、なんというか頼もしさというか、大きな可能性を感じた。期待と不安とともに見たが、期待以上だった。これもM−1といった大舞台で揉まれてきた結果だろうか?

5)ロッチ:
いつもと同じで、良かった。点数が、807、804、と高め安定というところもロッチらしい。1ネタ目の”かつ丼”はよいとして、2ネタ目の”巨乳”は、ネタのチョイスが惜しかったと思う。”UFOどこ?”はさすがにシンプルすぎるかもしれないが、”タトゥー(世界でひとつだけの花)””雨天中止を知らずに待ってる奴”でもいいし、もっとロッチの世界観を感じさせるようなネタをやってほしかった、と思うのは、ファン心理だろうか?しかし、まあ、その実力については、きっちりと分からしめたのではないだろうか?

6)しずる:
僕は、以前このブログで、”しずるは最近きびしい”というようなコメントを書き込んだことがあるが、ちょっとそれはあまりに短期的な見方だったと反省している。今回のふたつのネタにしてもそうだし、最近、レッドシアターやレッドカーペットでやっているネタにしてもそうだが、その練習量も含めて、鬼気迫るものすら感じる。ネタも磨きこまれた艶を持ち始めている。今回の2ネタ目。ネタとして決してよく編みこまれたものではないように思うが、そのテンポ、間、動き、せいふなどの総合力であるレベルを見せてくれた。それは、芸人としての”地力”とでもいうべきものだろう。

7)東京03:
とにかく、完成度がだんとつに高かった。設定をきっちりと積み上げ、その基盤の上で宙返りを打つような、基盤がきっちりできているから高く飛べるみたいな、感じ(?)。何言ってるんだ、僕は。
正直言って、やはり、お笑いという表現そもそのの外殻に触れるようなタイプではないと思うが、むしろ、表現としてのお笑いではなく、器械体操のような、競技としてのお笑いを突き詰めているトリオであるように感じた。端正で、美しいのである。

8)サンドウィッチマン
サンドウィッチマンが面白いことは間違いないが、M−1優勝のときから気になっていたが、彼らのボケとツッコミは、ひとつひとつがすごく小さいと思う(ボケのセンスがいいわけだが)。安定感というかバランス、松本人志も言っていたような”余裕”ぷりも大したもので、ボケとツッコミが小ぶりであろうが、トータル笑えればそれでいいわけではあるが、しかし、一方で、目指すべき地点の高さ、目線の高さ、お笑いというものを捉えるダイナミズム、のようなものをもっと見せて欲しいと思ってしまう。特にこのような大会においては。それは求めすぎなのだろうか?

3.総論:
コントというものが持つ特性にもよると思うが、今回ほどに、芸人としての地力、総合力、というものについて感じさせられた大会はなかった。そして、それは、ジャルジャルという(次代を担うはずの)才能ある若手が一皮むけるために、向き合わなくてはいけないテーマを浮き彫りにした大会、ということでもあった。今回の大会を見る限り、彼らは、その順位のとおり、同年代のモンスターエンジンやしずるに、いつのまにか水を開けられている。

東京03の優勝に関しては、審査員の芸人たちの心象とか言う以前に、納得できるものだった。芝居仕立ての組み立てで、その枠組みをきちんと立てている分、そこでのボケ、逸脱ぶりが弾けた。まさにお手本のようなコントだった。ただし、だからこそ言いたいのは、その完成度を崩してでも、どこかでお笑いの持つダイナミズム、逆説と向き合うことが、いずれ彼らのテーマになってくるのではないか、ということである。お笑いは不思議なもので、あるタイミングから、完成度が高まれば高まるほど、笑いから遠ざかっていくのだ。

審査方法については、総じて、今回もくろみの通りだったのではないかと思う。とにかく笑えるかどうかをリアルに捉えた芸人たちの審査はある意味きびしく、且つ的確だった。