M-1グランプリ2009

昨日行われたM-1グランプリ2009、順当な結果に終わったと思う。

1.点数と結果(並びは、出演順):
  
(第1回戦: ☆マーク−第2回戦進出コンビ)
1.ナイツ 635点
2.南海キャンディーズ 607点
3.東京ダイナマイト 614点
4.ハリセンボン 595点
5.笑い飯 668点 ☆
6.ハライチ 628点
7.モンスターエンジン 610点
8.パンクブーブー 651点 ☆
9.NON-STYLE 641点 (敗者復活から) ☆

(第2回戦)
1.Non-Style
2.パンクブーブー → 満場一致で優勝
3.笑い飯


2.所感:
パンクブーブーについては、昨年のM-1の際にこのブログで書いた通り、以前から決勝進出の実力があるコンビと捉えており、今回の出場もそういう意味では順当だと思っていた。そして、その上で、当日の相対的な”出来””ネタの並び”の中で評価すれば、満場一致での優勝もまた順当だったと思う。

決勝進出者が発表になってから、当日の大会開始前までで、僕が思っていたのは以下の2点だった。
1.決勝進出組については、実力的にはいずれも順当。新たに進出した、パンクブーブーは上記の通りだし、ハライチについても、その”偶然性”とか”一回性”を呼び込む形式が素晴らしいと考えており、決勝進出をうれしく思っていた。ただ、正直言って、決勝進出組の8組を見たときに、ある種の既視感とか”想定内”という感じを覚えたことは事実で、昨年感じたような新鮮さ、(驚きへの)期待感、というものが、個人的には少な  かった(なんだか、勝手な印象で、決勝進出という偉業を果たしたコンビ達に、基本的に失礼な話なんだけど・・・)。
その上で思っていたのは、
1)南海キャンディーズ東京ダイナマイトは、漫才を見るのが久し振りだが、以前とは違う新しいアプローチを見せてくれるか?
2)モンスターエンジンは、キングオブコントなどを経て、どれぐらい爆発力を発揮してくれるのか?
3)ナイツは昨年とは違う形式を用意しているのか?同じ形式で行くのか?
といったことで、つまりは、新しさ、驚きを、それでも期待していたということである。

2.今回の決勝戦には、以下のアングルが用意されていたように思う。
1)笑い飯が、最後のチャンス(実際には来年も出れるらしいけど)であり、とうとう優勝するのではないか?
2)NON−STYLEが、敗者復活で登場し、二年連続の優勝とはならないか?
3)キングコングなど、今年が最後のコンビ達が、敗者復活するか?

で、実際に決勝戦を見た感想としては、1.については、それぞれの点数や結果について何ら疑義は感じないし、非常に順当な形に収まったと思うが、やはり、当初、不安感(?)を持っていたとおり、驚きのようなものはなかった。それは、それぞれのパフォーマンスやネタに対しても、そうだ。全体としてのレベルは高かったし、ひとつひとつのネタもよく練られていて、そういう意味で素晴らしいということは言えるが、そこに、事前の期待の地平を越えて、事後的に”期待”という言葉を使えるような事件は起きなかった。2.については、それら、主催者側の用意したアングルをある意味で無化する結果になったが、それは、当日の審査員の評価が公正に働いていた結果だと思う。恐らく、今回の点数・結果については、ある程度お笑いを評価できる人間であれば、ほぼ納得するものなのではないか?

3.各論:
1.ナイツ:得意の”ヤホー”形式のアレンジであり、昨年度のネタからの差別化が図られていた。実際に面白かったが、基本的な構造に新味はなかった。
2.南海キャンディーズ:ネタもテンポもボケもツッコミも、数年前に決勝に出たときのものと、なんら変わらなかった。その変化のなさが、勝手に期待していただけに残念だった。
3.東京ダイナマイト:こなれたベテランの味。このコンビは、同じネタをもう何度見ても面白く感じられるようなステージに差し掛かっているように思う。しかしその分コンペではしんどいかもしれない。
4.ハリセンボン:前回出場のときよりもこなれていると感じたが、正直、大きくステージが変わったとは感じられなかった。
5.笑い飯:第一回戦のネタは、素晴らしかった。島田紳助の100点は、ひとつの伝説の演出に寄与することを狙ったものだと思うし、実際にそのように機能するものだと思う。優勝はしなかったが、M-1に9回連続で出場 し、100点がついた、というのはひとつの伝説として残るのであって、この時点で笑い飯M-1ストーリーはひとつの決着がついたように思う。第二回戦での”ちんポジ”ネタでの敗戦もまた、”無冠の帝王”としてのひとつの”笑い飯”神話の形成にこれ以上はないほど機能するはずである。来年も、主催者側のアングルとして”笑い飯とうとう優勝”という物語は語られるだろうが、むしろ今年で終わるほうが、今後に繋がる気がする。
6.ハライチ:さほど緊張していなかったように見せていたのはよかった。そういう意味では、”知ってる”ハライチを見れたが、それ以上でもそれ以下でもなかった。
7.モンスターエンジン:昨年度よりはコンビとしてのキャラクターを見ることが出来たように思うが、勝手に期待していたほどの爆発力はなかった。
8.パンクブーブー: ”知ってる”パンクブーブー。よかった。面白かった。そして、それは期待の想定内だった。
9.NON-STYLE:NON-STYLEのネタは、どうも昔から、覚えられない。よくできているが、ネタは小さいと思う。昨年優勝して今年オードリーに食われたのは、上沼恵美子が”フリートークがへた”と昨年言ったからだと思っ  ていたが(今年も、悪趣味なほど、言っていて、あれはあれでどうかと思うが)、むしろ、そのネタやキャラクターの”薄さ”の問題なのではないかと思い始めた。どうも、”覚えてられない”のである。

4.総論:
各論を書いていて、ひとつひとつ書いても仕方ない、というか、ほとんど同じことしか書いていない気がして詰らなくなってしまった。なんとか、大会全体を評価する方向に持っていきたい、ほめることこそが、”お笑い”ブログのあるべき姿だと思っていたのだけど、本音を言えば、今回の大会は全体としてレベルは高かったのでしょう、そして、結果も納得のいくものだったのでしょう、それについては、何ら疑義はないのだけど、でも、僕自身は、正直言って、事前から盛り上がるものも感じず、そして当日も、それをいい意味で裏切ってくれるものもなく、はっきり言ってあまり面白くなかった。実際に、あまり笑わなかった。広い意味で、キング・オブ・コントのときに感じたことに近いのだけど、僕自身がお笑いに対して常に期待しているのは、つまりは価値観の変動であって、面白くないものこそが面白いと、いつでも逆転してしまうそのダイナミズムなのであって、ひとつひとつのネタの”完成度”が高い低いというのは、詰るところどうでもいいのだ。その”完成度”という基準をいずれ無化する力こそが、究極的なお笑いの力だと思う。M-1はもともとオードソックスで完成度の高い笑いを評価する傾向にあると思うのだけど、その傾向は、さらに強くなっているように思う。それは、大会としての”形”が固まってきている証拠であって、ひとつひとつのネタは、その大会の”形”に準じていく(傾向と対策を練っていく)という意味で、それはそれで、”コンペ”のひとつの不可避的な方向ではあるのだけど、そうして完成に向かうことで、同時にこの大会は、お笑いのダイナミズムへのアクセスを失い、”完成度”という名の伝統芸能大会へと収束してしまうのではないか、という醒めた感想を持った。結局のところ、どういうメンバーがこの決勝に勝ち上がるか、逆に言えば、どういうメンバーを勝ち上がらせるのか、ということにかかっている訳だが、今回に関しては、選ばれたメンバー、そして、大会主催者側が用意したアングルなど、なんだか、硬直化の前触れを感じさせた(選ばれた芸人側が悪いわけでは、当然、ない)。M-1の権威とは、結局のところ、島田紳助松本人志という、”本物”のふたりが審査している、ということに尽きると思うのだけど、仮に、それが原因で大会の基準が硬直化してしまうのであれば、ふたりはそろそろ抜けたほうがいいのではないか、とすら思った。

僕は期待しすぎなのかもしれない。ただ、それでも、今個人が書いたような、”不満”や”醒めた見通し”を覆してしまうような逆転が起こるのがまた、お笑いの現場なのだとも思う。それこそが、”期待”という言葉が担う意味なのだと思うし、僕はその言葉をまだ信じてもいる。なんだか、”渋い”感想ですいません。